遺産分割の不動産の評価はどう決まる?よくあるトラブルと解決法 ─ 路線価・固定資産税評価額・不動産鑑定の違いを解説

相続が発生し遺産に不動産が含まれている場合、その評価額をどう決めるかは、遺産分割の大きな鍵となります。
現金や預貯金は額面が明確ですが、不動産は評価方法によって結果が大きく異なるため、相続人間の意見が対立し、トラブルに発展するケースが非常に多いからです。
「兄が住んでいる実家はもっと価値があるはずだ」
「地方の土地は需要がないから、評価額はもっと低いだろう」
このような感情的な対立を避けるためには、不動産を客観的かつ公平に評価し、相続人全員が納得できる金額を算出することが不可欠です。
この記事では、遺産分割で使われる不動産評価方法である路線価・固定資産税評価額・不動産鑑定評価と、それぞれの違い、そしてよくあるトラブルと解決策を徹底的に解説します。
不動産の評価が重要となる場面
不動産の評価額は、遺産分割において重要な問題となります。しかし、それだけでなく、相続における他の場面においても不動産評価が求められることがあります。具体的には以下のような場面があります。
- 遺産分割:相続人間で財産を分ける際に、各相続人の取り分を公平にするための基準となる。
- 相続税の計算:税務署に相続税の申告をする際、路線価を基準とした評価額が使われる。
- 不動産の売却:相続人が不動産を売却して代金を分配することを取り決めた場合(換価分割)、市場価格が基準になる。
このように、不動産の評価方法を誤解していると、相続税の申告額が誤ってしまったり、兄弟姉妹間の不公平感が生じたりして、深刻なトラブルに発展しかねません。
正しい不動産評価方法の理解が必要です。
不動産評価の代表的な3つの方法
不動産の評価方法には、主として「路線価」「固定資産評価」「鑑定評価」の3つがあります。以下では、それぞれの評価方法について解説します。
路線価(ろせんか)
路線価とは、相続税や贈与税を計算する際に使用される土地の評価額のことです。国税庁から、毎年7月1日に公表されます。
この路線価は、道路(路線)に面した標準的な宅地の1平方メートル当たりの価額として公表されます。これに土地の面積を掛けて、土地の路線価を算出するのが、路線価による土地評価額の基本です。
路線価による評価には、以下のようなメリットとデメリットがあります。
- メリット:国税庁が公表している公的な評価のため、客観性が高い。また、税務申告にも利用できる。
- デメリット:実際の市場における売買価格(実勢価格)の7〜8割程度になることが多く、相続人間で不公平感を生じる場合がある。あくまで土地の評価であり、建物の評価は含まれない。
固定資産税評価額
固定資産税評価額は、固定資産税や都市計画税、登録免許税、不動産取得税などの税金を計算する際に使用される評価額です。
この固定資産評価額は、国が定めた固定資産評価基準に基づいて、3年ごとに市区町村が決定します。毎年、土地所有者に送付される固定資産税納税通知書などに記載されています。
固定資産評価額には、以下のようなメリットとデメリットがあります。
- メリット:公的な評価であるため、客観性が高く、評価が容易。
- デメリット:実勢価格の7割以下になることが多く、路線価よりも実勢価格とのかい離が大きいため、相続人間で不公平感を生じる場合がある。
不動産鑑定評価額
不動産鑑定評価額とは、不動産鑑定士が、現地の状況や市場動向を調査し、時価を算定した評価額です。
専門家による評価であるため、一般的な「時価」に相当する価格評価です。市場価格に最も近い金額が算出されます。
そのため、不動産の売買の場面、裁判において不動産評価が必要となる場面などで利用されています。
不動産鑑定評価額には、以下のようなメリットとデメリットがあります。
- メリット:個別の不動産が持つ特性(立地、日当たり、接道状況、建物の状態など)を考慮して算出されるため、最も正確な評価額であり、相続人間の合意形成に役立つ。遺産分割調停や審判では、最も有力な証拠となる。
- デメリット:不動産鑑定士に支払う鑑定費用として数十万円かかることがある。鑑定調査のための期間が必要となるため、即時に用意できない。
遺産分割でよくある不動産評価トラブル
前記のとおり、遺産分割の場面では、不動産評価に関するトラブルは非常に多いです。例えば、以下のようなトラブルがあります。
トラブル1:評価方法をめぐる意見の対立
兄弟姉妹の一方は「路線価で分けよう」と主張し、もう一方は「不動産鑑定で実勢価格を反映させたい」と考えるケースなどです。不動産評価に関する最も典型的なトラブルでしょう。
評価額の違いによって、それぞれの相続分が大きく変わるため、対立が深まることがあります。
トラブル2:不動産を共有のままにしてしまう
不動産の評価額について相続人間で折り合いがつかず、結果的に不動産を共有名義にしてしまうことがあります。
しかし、決着をつけずに共有名義にしてしまうと、後に売却する際や利用する際に制限が生じ、遺産相続とは違った別の争いが生じてしまう場合があります。
トラブル3:売却価格と評価額の乖離
遺産分割時に路線価で評価したものの、いざ売却をしたら市場価格が大幅に高かったまたは低かったという場合、相続人の一部が「不公平だ」と感じ、紛争が蒸し返されることがあります。
不動産評価トラブルの解決法
前記のとおり、遺産分割においては、不動産評価方法それ自体でトラブルになるだけでなく、不動産評価が原因でその後にトラブルが再燃することも少なくありません。
このような不動産評価トラブルを回避するためには、適切な遺産分割方法を選択し、それに合う不動産評価方法を採用することが最も重要です。
そして、そのためには、以下の方法を実践することが大切になるでしょう。
客観的な情報を集める
相続人間でトラブルになりやすいのは、感情的な議論をしてしまうからです。感情的な議論を回避するためには、客観的な情報を集めることが肝心です。
まず路線価や固定資産税評価額といった公的な情報を収集します。
さらに、市場価格の参考とするため、不動産会社から査定をとります。ただし、査定価格はあくまで「この価格で売り出したら売れるだろう」という予想額です。複数の査定書を取り、その平均値を参考にしましょう。
可能であれば、不動産鑑定士に依頼して鑑定評価を出してもらいます。
まず評価方法について話し合う
いきなり不動産の分割方法について話し合う前に、前提となる不動産評価方法について話し合いましょう。
収集した客観的な各種の評価情報をもとに、どの評価方法を採用するのかを話し合い、それを決めてから遺産分割方法について話し合う方が、結果的には話し合いがスムーズに進みます。
専門家を交えて話し合う
相続人だけで話し合うと、感情論になりがちです。弁護士、税理士、不動産鑑定士などの専門家を交えて話し合うことで、感情的な対立を避け、法律に基づいた冷静な議論を進めることができます。
話し合いが難航するようであれば、弁護士などに相談・依頼をして、遺産分割の協議に参加してもらうことも検討した方がよいでしょう。
遺産分割調停や審判を利用する
どうしても話し合いがまとまらない場合は、家庭裁判所の遺産分割調停を申し立てましょう。調停では、裁判官または調停委員が間に入って話し合いを取りまとめてくれます。
遺産分割調停でも解決しない場合は、裁判官が判断を下す遺産分割審判へと移行します。
まとめ:遺産分割で後悔しないために
不動産の評価は、遺産分割協議で最も大きな火種となる可能性があります。しかし、その評価方法にはそれぞれ異なる目的と特性があることを理解し、状況に応じて適切な方法を選ぶことで、トラブルを未然に防ぐことが可能です。
- 相続税の申告: 路線価・固定資産税評価額
- 遺産分割協議: 公平性を重視するなら、不動産鑑定評価額や査定額
- 最終的な解決: 遺産分割調停・審判
どの評価を基準にするかで大きく取り分が変わるため、相続人同士でしっかり合意形成を図ることが重要です。
もし、不動産の評価や遺産分割協議でお困りのことがあれば、専門家である弁護士に相談することをお勧めします。後悔しない円満な相続を実現するために、ぜひこの記事を参考にしてください。




























